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電話ボックス

Category : 小説
盆休みもなさそうな吾妹です(^^;

場繋ぎに昔書いた短編でも。
一時期サウンドノベルとしても公開してたので目にした人もいるかもね。


「Telephone-Box」 2000/02/25

駅前の歩道に面した古ぼけた電話ボックス。
道行く人々が当たり前の様に携帯電話を持つ時代、使用頻度は激減した。
そんな時代の忘れ物のこのボックスが俺の待ち合わせ場所である。
俺は五年程前からこの街で探偵まがいの仕事をしている。
といっても本職は別の仕事なのだが、そちらは実入りが悪くて副業で探偵をして生計を立てているといった状況だ。
このボックスは初依頼の時から待ち合わせ場所として利用してきた。
当時はサラリ-マンなどの姿をよく見かけたものだが時の流れは街の風景を変える。
今も俺はこの場所で依頼人を待っているところだが、ボックス内には誰もいない。
ただ、一人の女性がボックスの前に立っている。この女性も待ち合わせだろうか。
そこで俺はふと思いたってその女性に声をかけた。
「あの、ひょっとして瀬崎さん?瀬崎春奈さん?」
女性は少し驚いた様子で振り向くと小さな声で言った。
「あ…はい。あなたが探偵さん?ごめんなさい、気付かなくて。私、もっとおじさんかと思って。」
「若すぎて心配かい?それより依頼人の目印に文庫本を読んでるようにと手紙に書いたと思ったけど。」
俺は伝達方法に電話などの電子機器は使わない。無論、傍受されるのを懸念してのことだ。
まあ、依頼人からの依頼は電話で受けるのだが、返事は手紙で、ということだ。
俺は先日の手紙に書いた事項を思い出して言った。
すると女性は少し困ったような表情を見せて頭を下げた。
「ごめんなさい。すっかり忘れていました。」
「いや、まあこうして会えれば問題ない。さっそく本題に入ろうか。」
俺はポケットから煙草を取り出し火をつけた。俺はメモをとるということはしない。
これも、依頼人のプライバシ-を守る為だ。その為、俺は記憶に留めておく。
この煙草を吸うという行為が今までの経験からいって、より頭に入ってくるという結論に達した。
だから俺は依頼を聞く時はいつも煙草をふかしている。
「で、依頼内容は?」
「はい…、実は一週間前になるんですけどここで彼と待ち合わせしていたんです。でも、私、病気で来れなくて。
それで連絡もできなかったので落ち着いてから電話したんですけど、何回電話してもでなくて。もしかしたらと思って
ここに来たんですけどいなくて…。もう私どうしたらいいのか。」
「なるほど、依頼内容はその彼を捜すってことでいいかい?」
瀬崎さんはもう泣きそうな表情で小さく頷いた。
「彼の家にはいなかったんだろう?」
「はい、何度も電話しましたけど出ませんでしたから。」
「じゃあ、彼の写真とかあるかい?」
俺が言うと瀬崎さんは手下げバッグから一枚の写真を取り出した。
「ふ-ん、今時の若者にしちゃあ、真面目そうな感じだな。」
「はい、すごく真面目で優しい人です。きっと、約束の日もずっと待ってたんだと思います。」
「名前、いいかい?」
「あ、はい。杉浦純一さんです。」
杉浦純一、どこかで聞いたような気がする。
まあいい、今は話を聞こう。
そして俺はその杉浦純一の行きそうな場所や性格などを聞いた。
「さて、じゃあ、調査結果は毎日一回報告するから。それでいいかい?」
「あ、それじゃあ、私はここにいますから。」
「…?別にここにいる必要はないよ。」
「いえ、もしかしたらここに来るかもしれないし…。」
「まあ、構わないが。それじゃ。」
「はい、お願いします。」
俺は瀬崎さんと別れた後、杉浦純一の自宅へ向かった。
基本だろう。
近所で見た人がいればいきなり接近できる。
しかし瀬崎さんの話が正しければ杉浦純一が失踪したのは数日前。
現在の情報が役に立つか難しいところだ。
俺がそんなことを考えながら杉浦純一のアパート付近までくると、ちょうどそのアパートの住人が出てきた。
「あ、ちょっとすいません。」
「はい?」
夕飯の材料でも買いに行くのか買い物袋を下げた主婦が俺に気付き振り返った。
「なんでしょうか?」
「杉浦純一さん、ご存知でしょうか?」
「杉浦さん?…ええ。真面目ないい人でしたよ。」
主婦は少しうつむきかげんで答えた。
「…でした、というのは?」
「それが、一週間ほど前でしょうか、交通事故で他界されました。」
「事故、ですか。すいません、ありがとうございました。」
「あの、あなたは杉浦さんのお友達の方?」
「ええ、まあそんなところです。」
「気を落とさないようになさいね。」
「はい。」
俺は引っ掛かっていたものが取れた気がした。
どこかで聞いた杉浦純一という名前。
数日前の新聞で目を通したことを思い出した。
「確か駅南の交差点だったな。」
俺はとりあえず現場を見に行くことにした。
ここからなら十分も歩けば着く。
細い路地を抜けて大通りに出る。
現場はその通り沿いの十字路だったはずだ。
ほどなく俺は現場に到着し様子を確認した。
確かに高い建物に囲まれ見通しが悪い。
そして交差点から五メ-トルほど離れた場所に一人の男性がしゃがみこんでいるのを見つけた。
俺にはそれが誰だかわかっていた。
俺はガ-ドレ-ルごしにその男性に声をかけた。
「杉浦さん。」
男性はゆっくりと振り向く。
「誰です、あなた?なんで僕の名前を。」
「瀬崎さんに頼まれましてね、探してたんですよ。」
「春奈に?そうですか。あいつ、心配してましたか?」
「ええ、そりゃもう。」
「でしょうね、ちょうど一週間前、デ-トの約束してたんですが、運が悪いですね。僕は。」
「すると、あんたも約束の場所には行けなかった、と。」
「も?あいつも来なかったんですか?」
「病気で行けなかったと言っていた。だから余計に気にしてる様子だったよ。」
「そうですか。」
「その日、行けなかったことが未練で、ここに?」
「ええ…それもあるでしょうが実は事故った時に春奈に渡すつもりだった指輪を落としてしまいまして。なんとかみつけることはできたんですが、何故かここから動けないんです。」
「なるほど、縛り付けられたな。」
「…地縛霊ってことですか。」
「まあ、そうだ。」
「僕自身はもう死を納得しているんですけどね。」
「助かるな。自分が死んだことを理解してる奴は話がしやすい。」
「春奈に会うことはできますか?」
「残念ながら無理だろう。しかし、あんたの未練を果たせば、成仏させることはできる。あんたならきっと成仏できる。あんたの体はもう透けているからな。未練が強ければ強いほど実体に近くなるのさ。」
「そうですか。では、これを春奈に渡してもらえますか?きっと、これが最後の未練でしょう。」
俺は純一の手から指輪の入ったケースを受け取った。
ケースはぼろぼろになっていたが中身は無事だったようだ。
「必ず届けよう。あんたのことも説明しておく。杉浦純一は最後まで瀬崎春奈を愛していたってな。」
「ありがとうございます。…ああ、なんだか体が軽くなってきましたよ。世界が虚ろになっていくようです…。」
「ゆっくり眠れ。彼女もそれを望むだろうさ。」
「…はい。」
その返事は俺には聞き取れなかった。ただ、そう聞こえた気がした。
その時にはすでに杉浦純一の体は俺にも全く見えなくなっていたのだから。
気が重い。
瀬崎さんに杉浦純一の死を伝えなければならない。
彼女はどうなるだろうか?
現実を受け止めてくれるだろうか。
それとも…
「俺がどうこうすることじゃないな…、彼女の問題だ。」
西の空が朱に染まる頃、俺は電話ボックスに向かった。
「あ。」
瀬崎さんが俺に気付きにっこり微笑む。
本当にずっとここに居たようだ。
その笑顔が俺には辛かった。
その笑顔を保てるだろうか。
いや、再びその笑顔を作れるだろうか。
「どうも。」
「どうでしたか?何かわかりました?」
「ああ、今日の報告しよう。」
「はい。」
「結果からいえば杉浦純一の現在の所在はわかった。」
「えっ?ホントですか!?」
「本当だ。ただし、もう二度とキミに会うことはない。」
「え…それはどういう…、まさか。」
「そう、そのまさかだったよ。あの日、杉浦純一もまた約束のこの場所へは来れなかった。彼は交通事故でその日に命を落としてしまったんだ。」
「…そんな…、そんなのって…。」
「しかしね、彼は最後までキミのことを想っていた。彼からキミに…だそうだ。」
俺は杉浦純一から受け取った指輪を瀬崎さんに渡した。
彼女は指輪を受け取るとそれを握り締め、涙をぼろぼろこぼした。
「…こんなモノより、あなたに生きていてほしかった…。」
「瀬崎さん…。」
「私のぶんまで…生きていてほしかった。」
「え…?」
その時、彼女の手から指輪が落ちた。
離したわけではない。
握り締めた手からすり抜けて、落ちた。
「瀬崎…さん。」
俺が気付いた時、瀬崎さんの体は透けはじめていた。
「ごめんなさい、探偵さん。」
「…そう…だったのか。瀬崎さん、あんた、本当はもう…。」
「はい…、あの日、私の病気は私を蝕み、もう命を侵食しはじめていました。でも、私はここで待っている彼のことが気がかりで…。」
「それでここに縛られていたから、電話で俺に…。」
「はい、私にできることはそのぐらいでした。だから、ごめんなさい。手紙も読んでいません。
ただ、ここを待ち合わせ場所にする探偵さんがいるっていうことは聞いたことがあったので。」
「そうか、じゃあ、まあ上で杉浦さんにもよろしく言っておいてくれ。」
「ふふ、夢があること言うんですね。…死んだら天国に行けますか?きっと、そんなトコロないですよね。きっと、真っ暗な無が広がるだけですよね…。」
瀬崎さんは言いながら、無理に笑顔を作っていた。
しかし、こぼれる涙だけはどうしようもなくとめどなく流れていた。
「信じてみたらどうだ?もう一度、彼に会えると。」
確かに、俺も天国などという鎮撫なものを信じちゃいない。だが、それではあまりに悲しすぎる。嘘でもいい。逝く者に少しでも勇気を与えられるなら。
「そう…ですね。ありがとうございます。…ごめんなさい、お金は…。」
「いらんよ。もともと探偵は副業でね。こっちが本職さ。それにいつもこっちの報酬は望んでいない。」
「…こっち?」
「迷える霊を送ること…。瀬崎さん、霊だと気付かなかったのはあなたが初めてだったよ。よほど彼のことを愛していたんだな。未練が強かったんだろう。」
「そうですね。私なんかをほんとに大事にしてくれる人でしたから…。あ…、私、消えるんですね。もう探偵さんの姿がぼやけてきました。それになんだか…軽い…。」
「消えないさ。言ったろ。信じてみろって。」
「そう…でした…ね。」
実際、消えていく中で瀬崎さんはにっこり微笑んだ。ぎこちない笑顔ではなく…
本当の笑顔だったように思えた。
地面には虚しく取り残された指輪が転がっていた。
俺はその指輪を拾うと病院へ向かった。
瀬崎さんの住所から瀬崎さんの収容されている病院は見当がつく。
向こうで指輪をはめられるように、俺は指輪を届けようと思った。
「やれやれ、また儲けはゼロか…。今週もパンの耳かな…。」
俺はため息をつきながら歩きなれた電話ボックスの通りを歩いていった。

‐ 詳しい依頼内容は実際にお会いになってから伺います。明日、駅前の電話ボックスで
  お待ち下さい。尚、その際、文庫本を読んでいて下さい。

                - fin
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プロフィール

吾妹 木綿 wagimo yu

Author:吾妹 木綿 wagimo yu
呼び声のするトコロは
2003-2007に製作された
「call project」一連作品の
いろいろをなんか製作者の
吾妹木綿がアレコレと書いてくブログです

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